強く見えたきみ 強くなれなかったぼく
「じゃあ、これでさよなら」
そう言った彼女はぼくから何も受け取らなかった。ぼくに涙も見せなかった。
悲しくないのかと。惜しくないのかと。ぼくは彼女を責めるみたいに尋ねた。尋ねずにいられなかった。
彼女は、「何か残っているものがあるなら、きみの前からいなくなったりしないわよ」と微笑んで言った。
それでぼくは、彼女に会えるのは、本当にこれが最後なのだとようやく理解した。
「さよなら。元気でね」
そう言って。
彼女はそれきり振り返ることなく、丘を下りて行った。
彼女の背中が見えなくなるまで、ぼくはずっと立ちつくして見つめていた。
けれど、彼女は振り返らなかった。
彼女が見えなくなってからも、ぼくは案山子みたいにそこから長い間動くことができなかった。