6月の防波堤
「待ってたよ」
防波堤にやってきたわたしにそう言った彼女の顔は、なんともそっけないものだった。
「そっけないって、これから入水するのに、笑って迎えてほしいの?」
そう言われたらわたしのほうが苦笑するしかなかった。たしかに。これから死ぬ二人が会ったとき、どんな顔をしたらいいんだろうね。
「最後に何か言葉はある?」
わたしは首を横に振った。だって、ここにいる二人ともがこれから死ぬのだから。わたしが言葉を残しても、この世界には残りはしない。
「そうだね。きっと、10年も経てばわたしたちのことを覚えている人はだれもいない。100年も経てば、それこそだれもかれも歴史になんて残らず忘れ去られる」
わたしは首肯した。
「それなら、なんでわたしたちは生まれてきたんだろう?わたしとあなたは何故であったんだろう?」
わたしは、考えてみた。けれど、今更そんなことはわかりはしない。
いや、答えは出ていた。だからこそ、わたしは6月の防波堤で、この結末を選んだんだから。
「そう……。それじゃあ、いこうか」
わたしは彼女に手を取られ、防波堤の上に立った。高い。怖い。
「いくよ」
彼女はためらわない。
「せーのっ!!」
手をつないだまま、まるで子供のころの遠足の記念撮影みたいにわたしたちは、跳んだ。
遠くで
12時を告げる教会の鐘の音が鳴っていた