渋谷の18階で、3時間後
夢で渋谷を歩いていた。
ごちゃごちゃと立ち並ぶ雑居ビルの隙間と隙間を走るような道を歩いていた。
ぼくを呼び止める人間がいた。蕎麦の屋台の老人である。
老人はぼくに蕎麦をすすめてきた。ぼくは「持ち帰りなら買ってもいい」と応えた。老人は持ち帰りもやってると言った。
「そこのビルの18階で持ち帰りを売ってる。エレベーターを降りて正面の部屋だ」
そのビルは築30年は経ってそうな雑居ビルだった。ぼくはビルに入りエレベーターに乗った。エレベーターは12階までしか登らなかった。エレベーターを降りるとまた別のエレベーターがあった。そちらは18階まで登った。古い雑居ビルはこれだから面倒くさい。
18階ではたしかに持ち帰りの蕎麦を売っていた。しかし、ちょうど品物を切らしており、次の蕎麦ができるまで3時間かかるという。
「また3時間したら来てください。作っておきますから」
ぼくはまた来る、と頷いてビルを降りた。
時間を潰すために駅に戻り電車に乗った。御徒町まで戻ったところで、駅の壁に昔の恋人の写真とブログのアドレスが貼ってあることに気づいた。ぼくは知らない顔をして通り過ぎようとした。しかし、足を止めてしまった。アドレスをiPhoneで叩いたがブログにはどうしても繋がらなかった。ぼくは安堵した。誰がこんなものをこんなところに貼ったのか。タチの悪い悪魔か何かだろう。
時間なので渋谷に戻った。
しかし、ごちゃごちゃした雑居ビル群の中から、あのビルはどこにも見つけることができなかった。
そこで夢から覚めた。
受け取ることのできなかった蕎麦は、果たして誰か食べてくれたろうか。
あの老人はぼくを嘘つきだと思っただろうか。
もし次に渋谷に行ったら、もう一度あの絶対に存在しない雑居ビルを探そうと思う。