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Melodies

心なしかさみしいI love U

I love you baby, and Happy Birthday to you

・昔あるところに、独身の29歳のおねえさんがいました。



・おねえさんは仕事もしっかり勤めていましたし、実家から自立して一人暮らししていましたが彼氏がいませんでした。



・毎日仕事から帰ってくるとテレビかTwitterを眺めながら声の出ない笑いを顔に浮かべ、そしてお酒を飲むのでした。たまに古い友だちに会えば、結婚したという報告を聞きました。



・そんな毎日でした。



・そんなある日、おねえさん宅の押し入れからひとりの愛らしい男の子が飛び出してきました。




・男の子は言うのです。「ぼくは未来からやってきたんだ。未来ではおねえさんは結婚もできず、ずっとひとりぼっちなんだ。ぼくはそれを変えるためにきたんだよ」



・もちろんおねえさんは信じられませんでした。



・けれど、おねえさんは男の子を自分の部屋に住まわせることにしました。



・男の子の言うことを信じたのではありません。



・おねえさんは淋しかったのです。虚しかったのです。




・だから、身元はわからないけれど、見た目だけはとびきり可愛い男の子を部屋に置くのもいいかと思っただけなのです。







・もう、大抵のことがどうでもよかったのです。










・男の子の暮らしは静かなものでした。



・まるで昔から一緒に暮らしていたように二人は過ごしました。



・同じ部屋にいてもお互い好きなことをして、けれども言葉をかけたら返事が返ってくる。



・また、男の子は歳の割に(見た目は小学4年生くらいでした。長すぎず短すぎずのボブの前髪が、長い睫毛にかかりがちなようで、よく前髪をいじっていました。体格はスリムというよりは痩せ気味で、この歳の子供には珍しくおやつを欲しがりませんでした。)生活能力が高くて、掃除も簡単な料理もやってのけました。
おねえさんが仕事から帰ってくると、ドアを開ける前から晩ごはんのおいしそうな匂いがあふれてきて、おねえさんはなんだか泣きそうになるのでした。




・おねえさんは料理をするようになりました。自分の生活を改めはじめました。



・それは、「女性は料理できるべし」という古い観念のためではありません。



・ただ、一人の自立した人間として、もっと胸を張って生きたい。



・そう思っていた、昔の自分に戻りたい。



・つまりは、おねえさん自身の矜持だけのためでした。










・二人の日々は続きました。初めから二人だったみたいに。終わりまで約束されたみたいに。ハッピーエンドのドラマみたいに。そんなふうに日々は続いていくような気が、おねえさんはしていました。



・けれど、お別れは突然やってきたのです。



・ある日、男の子の体が、透き通って見えるようになりました。まるで切れかけの電球のように、薄く、濃く、その姿を明滅させるようになったのです。



・男の子は説明しました。「これでいいんだよ」と。「おねえさんが、投げやりな気持ちを捨ててくれようとしているから、ぼくは消えるんだ。おねえさんの未来は変わるんだ。」



・「ぼくはね」



・「おかあさんの子供なんだ。おねえさん、ううん、おかあさん。」














・おねえさんの元へやってきた男の子は、本当に未来からやってきたのでした。



・しかも彼は、おねえさんの子供だったのです。



・男の子がやってきた未来では。



・投げやりな気持ちで生きていたおねえさんは、自暴自棄なまま酷い男に口説かれて子供を孕んでしまいました。



・しかし子供が出来たと知ると男は姿を消しました。おねえさんは子供を産んだものの、ずっと一人で子供を育てるのでした。



・男の子はおかあさんの悲しみとやるせなさだけを聞いて育ちました。けれど彼は本当に優しい子でした。彼は10歳のときに大病を患ってしまいました。そしてその死の間際、彼が願ったことは。








・「おねえさんに幸せになってほしい」







・それを、神様が聞き届けたのでしょうか。



・男の子の魂は、過去にやってたのです。



・おかあさんの悲しみを無かったことにするために。






・「ぼくが消えるってことは、おかあさんはもうだいじょうぶってことなんだ」



・男の子はそう言うのです。笑ってそう言うのです。



・「だから、泣かないで、おかあさん」



・おねえさんは男の子を抱きしめました。けれど、男の子の小さい体は、腕の中でばらばらの粒子になっていきます。



・「おかあさん、さようなら」



・「ばかぁっ!!」



・おねえさんは叫びました。



・「本当は自分だって辛いくせに!子供のくせに!親にそんな顔させて!ごめん!ごめん!ごめん!」



・おねえさんは叫びました。



・「また会えるから!もう投げやりになんてならないから!今度はちゃんとお互いに好きな人と結婚するから!その人と子供を……あんたをもう一度産むから!だから、ごめん!」



・その言葉を聴いた男の子の目尻を、ぽろりと涙が伝いました。



・きっと、嬉しかったのではないでしょうか。



・男の子はにっこりと笑って、そして幾千万の光の粒としてはじけ飛びました。



・おねえさんは長い間なきじゃくりつづけました。








・数年後。



・市の総合病院におねえさんはいました。出産を終えたばかりの顔は汗ばんでいるのに青白く、髪もくしゃくしゃになっていました。



・けれど、その顔は世界で一番誇らしげで、幸せそうでした。



・おねえさんのベッドの隣には一人の男性がいて、おねえさんの手をそっと優しく握りしめていました。そしておねえさんの胸元に抱かれているのは……



・「はじめまして。ううん、違うね。久しぶり。」



・元気に泣き声を上げる、男の子の赤ちゃんがいました。



・「あんたが変えようとした未来、変わったよ。これがあんたの欲しかった未来」



・おねえさんは……いえ、おかあさんは男の子の頬をなでました。



・「でもね、今度はあたしの番。あたしが欲しかった未来、これから作っていくから。だからね。」



・おかあさんは、男の子の頬にキスしました。



・「これからも、どうかよろしくね。お誕生日おめでとう。大好きだよ」